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仙台高等裁判所 昭和58年(ネ)240号 判決 1985年12月09日

控訴人 但木議一

右訴訟代理人弁護士 沼波義郎

同復代理人弁護士 半澤力

被控訴人 日通商事株式会社

右代表者代表取締役 北本一平

右訴訟代理人弁護士 伊藤直之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

第二主張及び証拠

当事者双方の主張と証拠の関係は、双方において、次項以下のとおり主張を補足し、当審における証拠関係が当審記録中の証拠目録のとおりであるほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

第三控訴人の補足主張

一  本件割賦販売契約及びリース契約の不成立について

1  本件において被控訴人が主張する受水槽外二点の売買契約および普通旋盤のリース契約については、そのとおりの契約を締結した旨の契約書が存在するけれども、これは買受人および賃借人である訴外合資会社仲沢製綿機製作所(以下訴外会社という。)と被控訴人従業員の小梁川英雄が共謀してその旨の書面を作成したものであり、以下に述べる理由により、これらの契約は成立しなかったものと評価すべきである。

2  すなわち本件の如き受水槽等の割賦販売契約の場合は、被控訴人と買受人(ユーザーという。)との間に売買の話がある程度煮つまると被控訴人からその受水槽の納入業者(ディラーという。)に注文が行き、ディーラーは注文請書(甲第三号証の二)を発行する。そして割賦販売契約書(甲第一号証)が作成されると、被控訴人はディーラーに対し受水槽の納入を求め、売買代金を支払う。そしてユーザーが被控訴人にその代金を割賦返済するわけである。

3  また本件の如きリース契約においても被控訴人と賃借人(ユーザーという。)との間に物件のリースの話がもち上ると被控訴人はその見積りを業者にさせ、ディラーに注文請書を提出させてリース契約書(甲第二号証)を作成させ、ディーラーに対しリース物件の代金を被控訴人が支払い、ディーラーはリース料を被控訴人に支払うのである。

4  いずれにしても売買物件、リース物件の契約が被控訴人とディーラーとの間でなされると、被控訴人はその代金相当額をディーラーに支払うシステムになっている。

ところで被控訴人の従業員である小梁川はこのシステムを悪用し、虚偽の契約書、注文請書を作成して、現金をひき出そうとし、訴外会社代表者の仲沢も、うしろめたい気はしたが、債務に追いまくられ、二人は共謀のうえ、前記売買代金を横領する計画を立ててこれを実行した。右仲沢は受水槽の売買および旋盤のリース行為をなす意思はなかったのに小梁川との間で一連の内容虚偽の書面(甲第一号証ないし甲第五号証)を作成したがこの場合、小梁川は被控訴人の従業員としてではなく個人として関与したものであり、しかも被控訴人は本件受水槽等および旋盤の売買代金をディーラーに支払った(この金銭は小梁川が仲沢に引渡している。)のである。小梁川の上司までがこの事実を知って売買代金をディーラーに支払ったとは考えられないので、被控訴人は小梁川と仲沢の作成した契約書の内容が虚偽であることを知らなかったものというべきであり、訴外会社と被控訴人との間の通謀虚偽表示は成立せず、むしろ、契約自体が成立しなかったものとみるべきである。

控訴人は連帯保証責任を負わないのである。

二  本件割賦販売及びリース契約と保証契約の無効について仮りに右の主張が認めかりに、右主張が認められないとしても

1  本件リース契約は一旦無効となった契約書を勝手に濫用したものである。

1  すなわち、右リース契約は、先に控訴人を含む関係者がリース契約書(甲第二号証)の書面に捺印したものの、不採用となって、その旨の通知があり、控訴人は申込が無効となったと思っていたところ、これを小梁川が流用したものであって契約は不成立であるか又は無効である。

2  本件割賦販売及びリース契約はいずれも訴外会社と被控訴人が通謀してなした虚偽の意思表示によって締結されたもので無効であり、また、控訴人の保証意思につき表示された動機について錯誤があったから保証契約は無効である。

これまでの銀行などの単なる貸金契約の場合はこれに対する担保が必要であるのに対し、割賦販売やリース契約の場合は、その契約に含まれる物件が担保になることに特徴を有し、これにより、割賦販売やリース制度が急速に利用されるようになった。

したがって、割賦販売やリース契約を空ローンや空リースにするなどということはこれらの契約の本質を否定することであり、まして信販会社・リース会社の従業員がこれを行うということはありうべからざることである。本件は訴外会社の仲沢啓と前記小梁川とが通謀して金員を騙取したものであり、仮りに右両名の行為が金銭消費貸借であるとすれば、控訴人はこれを知らずに保証したもので、その点に錯誤があったことになり、これはいわゆる動機の錯誤である。控訴人は中沢に対して旋盤などはいらないのではないかと問い正したのに対して、同人はぜひとも新しい旋盤を買って工場を拡張するのだといい、また受水槽にしても、アパートに使用するのだと断言した。すなわち、控訴人は訴外会社が事業のために現実に物件を購入ないし賃貸すること、単に金を借りるのではないことを仲沢が強調したから保証したものであり単に金を借りるのであればすでに銀行から十分に借りているので保証しなかったのであり、表示された動機について錯誤がある。

三  権利濫用等について

仮りに控訴人の右主張が認められないとしても、本件請求は権利濫用ないし信義則違反として認められるべきではない。

本件は被控訴人の従業員たる小梁川が訴外会社の仲沢及びディーラーのタカオ工業株式会社又は大秋商会と共謀のうえ、架空の割賦販売契約、リース契約を締結したものであるが、このようにしてなされた三件の契約のうち本件訴訟で問題となったものの外、什器備品の五〇〇万円のリース代金も小梁川が使ったものである。

本件はこのように小梁川が被控訴人の従業員として被控訴人の印鑑等を自由に出来る立場から中心的人物として不正行為をなしたものであり、むしろ、被控訴人はその損害賠償をディーラーに請求すべきものであって、自らの従業員の不正行為を放置しておきながら控訴人に対して本件の如き請求をすることは権利の濫用ないし信義則違反というべきである。

被控訴人は、本件割賦販売及びリース契約の目的物件について、所有権を留保しているから、その引揚げをすることによって出捐した金額を回復することができ、リース代金の請求をする必要はない。

四  控訴人の保証責任の範囲について

控訴人は本件割賦販売及びリース契約本来の実質を備える契約上の債務について保証したものであり、本件の如く、被控訴人が変則的な内容の契約に基づいて、訴外会社に対して金員の返還請求権を取得したとすればそれは控訴人の保証債務の範囲に属しない。

五  同時履行の抗弁権に基づく支払拒絶について

仮りに右の主張が認められないとしても、被控訴人は訴外会社に対して割賦販売品およびリース物件を引渡していないから控訴人は支払を拒絶する。もっとも控訴人と被控訴人との間においては商品の瑕疵担保責任につき、いわゆる抗弁の切断条項が定められているが、右の定めは信義則に反するものであって無効である。

この点に関し、被控訴人は、「保証人は売買物件やリース物件の引渡がないことを理由として、その責任を免れることはない」と主張し、また、いわゆる信販会社、リース会社とユーザーとの間の瑕疵担保抗弁の切断条項は有効であるとの判例が有力であるが、本件の場合のように、信販会社、リース会社の従業員が犯行の中心人物であるような場合は別であって、抗弁の切断がなされるとの立場が一般的である。

第四被控訴人の認否及び反論

一  控訴人主張の一の事実のうち、本件割賦販売及びリース契約がその主張の如き制度であることは認める。訴外小梁川が被控訴人のもと従業員であることは認めるが、同人が訴外会社の代表者仲沢と共謀のうえ、内容虚偽の書面を作成して、被控訴人を欺罔し、売買代金を横領しようと企て、実行したとの点は否認する。

同二の事実のうち、本件旋盤機械のリース契約の申込について、不採用の旨を通知し申込が失効したとの点、通謀虚偽表示ないし、意思表示の錯誤の点は、いずれも否認する。

同三の事実のうち、訴外小梁川の不正行為の点は否認し、同人が控訴人主張の売買代金(五〇〇万円)を使用したとの点は不知。

同四及び五の主張は争う。

二  控訴人の主張に対する反論

1  本件割賦販売及びリース契約の性格について

本件割賦販売及びリース契約は、実質的には買主又は賃借人(ユーザー)たる訴外会社が売買物件又はリース物件を販売業者(ディーラー)から買い受けるのであって、契約書上、売主又は賃貸人とされている被控訴人(信販会社・リース会社)は、実質的には売買物件又はリース物件の購入資金を融資し、訴外会社がこの資金により目的物件をディーラーから直接購入したのと同一の経済的効果を与えることを意図した、いわゆるファイナンスリース契約に当る。この契約における、ディーラーと信販会社・リース会社たる被控訴人及びユーザーたる訴外会社の三者間の関係は、ディーラーと信販会社・リース会社との取引は売買契約、信販会社・リース会社とユーザーとの取引は売買契約又は、賃貸借の要素を含む無名契約たるリース契約と評価されるが、これら三者間の関係は、相互に密接な関連を有し、実質は信販会社・リース会社の、ディーラー及びユーザーに対する信用供与にほかならず、ユーザーが信販会社・リース会社に対して支払う売買代金又はリース料は経済的には利息付金銭消費貸借における割賦返済金の意義を有するものである。

2  契約の申込ないし承諾の撤回の主張について

被控訴人は割賦販売及びリース契約の申込を受けた後は遅滞なく信用調査その他必要な調査を行い、申込を承認するか否かを決し、承認後に初めてリース契約書を作成のうえ申込者に署名押印をさせているのであり、控訴人主張のように、申込を承認する前に契約書に署名させることはないし、本件につき契約書を作成した後、不承認とし、申込が失効したということはありえない。

3  通謀虚偽表示ないし意思表示の錯誤の主張について

かりに、訴外会社が、控訴人主張のように、始めから本件売買物件及びリース物件の引渡を受けることを目的とせず、購入資金の融資を受けるのと同様の経済的効果のみを目的としていたとしても、割賦販売契約及びリース契約の実質は前述1のとおり、売買物件やリース物件の購入資金の融資に外ならないのであるから、割賦販売契約やリース契約を締結して、実際には目的物件の引渡を受けずに、信販会社・リース会社から売買代金やリース料総額に相当する金融の利益を受けてこれを売買代金又はリース料として割賦返済をする意思が存した限りは、割賦販売契約やリース契約が全く虚構のものであるということはできず、意思表示における表示上の効果意思とその真意との間に不一致はなく、通謀虚偽表示も意思表示の錯誤の問題も生じない。

なお、かりに、控訴人主張の如く、被控訴人の従業員である小梁川が使用者たる被控訴人を欺く目的で契約の相手方である訴外会社等と通謀したとすれば、使者ないし代理人は契約の相手方と通謀して本人を欺罔する権限を有しないから、小梁川の行為は、被控訴人の代理行為とはいえず、むしろ相手方たる訴外会社の意思伝達機関の行為と目すべきであり、したがって訴外会社の意思表示の全体は、心裡留保に止まるものであるから、それを知りえない被控訴人との関係においては、契約は有効というべきである(大判昭和一四年九月二二日新聞四四八一号、大判昭和一四年一二月六日民集一八・二二―一四九〇参照)。

控訴人は、金融を得ることだけが目的であれば、保証しなかったと主張するが、控訴人は売買物件やリース物件が確実に引渡されたか否かを容易に知ることができる地位にあり、むしろその引渡がなされないことを知っていたのであり、かりに、その主張の如く、錯誤があったとしても、それは動機の錯誤にすぎないうえ、売買物件やリース物件の引渡の有無を確認しなかったことに重大な過失があるから、表意者自らが錯誤を主張することはできない。

4  売買物件及びリース物件引渡との同時履行の主張について

割賦販売契約及びリース契約の実質は前述したとおりであるから、売買物件やリース物件の引渡がないままにその目的物件の受領証を発行し、恰もその引渡があった場合と同様の外形のもとに、リース会社からディーラーに対する買受代金の支払がなされ、融資が実現した場合には、目的物件の引渡がなくても、割賦販売契約やリース契約の効力が生じ、目的物件の引渡がないことを理由に売買代金やリース料の支払を拒むことは許されない(東京地裁昭和五二年三月三一日判決、判例時報八六四号参照)。本件においては被控訴人は各ディーラーに対し、本件売買及びリースの目的物件の代金を支払って、融資が実現しており、かつ、控訴人は訴外会社をしばしば訪れ、その目的物件の引渡の有無を容易に確認することができ、かつ、その引渡がなされないことを知っていたのであるから、引渡のないことをもって、自己の債務の支払を拒む理由とすることはできない。

5  控訴人の保証責任について

控訴人は、本件割賦販売契約及びリース契約上の、訴外会社の一切の債務について保証し、訴外会社と連帯してその責に任ずることを約したのであるから、本件割賦販売契約及びリース契約が、訴外会社とディーラーとの間の合意により契約目的物件の引渡を要しないこととした、変則的なものであることの故に、その責を免れることはできない。

理由

一  本件割賦販売及リース契約の成否について

1  《証拠省略》によれば、①被控訴人が訴外タカナ工業株式会社から代金三〇一万一〇〇〇円で買い受けた受水槽等三点の物件を、昭和五五年六月三〇日、訴外会社に対し、代金四一〇万四〇〇〇円で、頭金として即時に二〇万五二〇〇円を支払い、残金三八九万八八〇〇円を、右同日から昭和六〇年二月二五日までの間、毎月六万八八〇〇円ずつ五七回に分割して支払うこと、遅延損害金を日歩四銭(年一四・六パーセント)とすること等の約定により売り渡し、②被控訴人が訴外大秋商会から代金六八〇万円で買い受けた普通旋盤一台及び訴外峰村商会から代金一一四一万八〇〇〇円で買い受けた超仕上カンナ盤等七点の機械類を、同年九月二〇日、訴外会社に対し、期間を同日から七年間とし、賃料を毎月三二万七〇〇〇円、最終月より三ヶ月分の賃料九八万一〇〇〇円を前払し、損害金を第一年度二七四六万八〇〇〇円、第二年度二三五四万四〇〇円、第三年度一九六二万円(以下、第七年度までの損害金の定めあり。)とし、一回分でも賃料の支払遅滞があれば期限の利益を失い、通知催告なく契約の解除がなされ、右規定の損害金とこれに対する年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払うこと、をそれぞれ内容とする①の「割賦販売契約書」(甲第一号証)、②の「リース契約書」(甲第二号証)に訴外会社が買主及び賃借人として、被控訴人が売主及び賃貸人として各記名捺印し、控訴人がいずれも訴外会社の連帯保証人として署名捺印したことが明らかであるから、右割賦販売契約書及びリース契約書に記載されたとおり、被控訴人と訴外会社及び被控訴人と控訴人との間に、各自の意思表示がなされ、①及び②の内容の合意が成立したものと認められる。

2  控訴人は右②の合意に関し、控訴人が甲第二号証の書面に署名、捺印して被控訴人に送付したが、一旦被控訴人から、申込に対する承諾の拒絶がなされ、申込が失効したのちに、被控訴人の従業員である小梁川英雄が、手許に残留していた甲第二号証を冒用して、新たな合意が成立したかの如き外形を作出したとし、合意の成立ないしはその効力を争うのであるが、《証拠省略》によっても、右②の機械類のリースについて一旦申込をしたものの、書類不備との理由により直ちには被控訴人の承認するところとならず、のちに、書類を整備し直して甲第二号証の書類として申込を補完し、被控訴人の承認、受諾を得た事実が認められるに止まり、控訴人主張の如き事実を認めることはできないし、《証拠省略》によっても、その事実を認めるに足りない。他にはその証拠がない。

3  控訴人は、被控訴人の従業員である小梁川と訴外会社代表者とが、共謀のうえ、被控訴人を欺罔し、割賦販売及びリース物件の代金名下に金員を横領するために、各関係者の記名捺印又は署名捺印を得て、前記各契約書を作成したとし、これを理由に、右各契約書記載の如き合意は成立しなかったものと評価すべきであると主張する。しかしながら、契約書に記載された内容を、契約当事者が認識し了解のうえ、各自が署名捺印をした以上は、各当事者はその記載内容のとおりの意思表示をしたことは否定できないところである。契約書作成の過程において、契約の推進に関与した当事者の一方又は当事者外の第三者の主観的な意図や目的のいかんは意思表示や合意の成立に何らの影響を及ぼすものではない。

4  したがって、被控訴人と控訴人との間には、被控訴人が請求の原因において主張しているとおりの割賦販売契約及びリース契約が成立し、被控訴人と控訴人との間に、右各契約に基づく訴外会社の債務についての連帯保証契約が成立したことは明らかである。

二  そこで、次に、右割賦販売契約、リース契約及び連帯保証契約の効力について検討する。

1  本件リース契約がすでに失効した甲第二号証の契約書を冒用してなされたとして契約の効力を争う控訴人の主張が理由のないことは前述したとおりである。

2  控訴人は、本件割賦販売契約及びリース契約は通謀虚偽表示に当り無効であると主張し、その理由とするところは、被控訴人の従業員小梁川英雄と訴外会社代表者との間において、売買物件及びリース物件の引渡を受けることを目的とせず、物件の代金相当の融資を受けることのみを目的とした、いわゆる空ローンや空リースを計画し、その真意と異なる内容の本件各契約を締結したからであるというのである。

《証拠省略》を総合すると、本件割賦販売契約及びリース契約がなされた経過及びその後の事情は、次のとおりであることが認められる。

被控訴人は商品の割賦販売及びリース業を経営する信販会社及びリース会社であるところ、被控訴人の行っている①割賦販売方式は、需要者(ユーザー)が物品販売業者(ディーラー)から商品を、自主的に取り決めた代金により購入する場合に、信販会社である被控訴人がディーラーから一旦その代金により当該商品を購入し、商品はディーラーから直接、ユーザーに送付させるとともに、被控訴人からその代金を即金で全額ディーラーに支払い、さらに、その商品を被控訴人からユーザーに対しその代金額に一定の金額を加算した代金額により転売して、その転売代金をユーザーから被控訴人に対し割賦償還する形式をとり、これにより、実質的には、ユーザーの購入する代金の代払い又は、資金の融通をし、利息、手数料を加算して分割弁済を受けるという融資方法であり、②更にリース方式は、右と同様の場合に、被控訴人が右①と同様にディーラーから、ユーザーが取り決めた商品をその取り決めにかかる代金により買い受けて、商品をディーラーよりユーザーに直接納入させ、代金を即金でディーラーに完済するが、被控訴人とユーザーとの間では、当該商品をユーザーに対して、一定の期間賃貸し、その期間内に、右代金額に一定の金額を加算したリース料総額を割賦により償還し終るに足る金額を、毎月の賃料として支払い、もし期間の途中において賃貸借を終了させるときは、直ちに、右賃料総額から各経過年数に応じた一定の金額を減じた金額を損害金の形で償還することにより投下資金を回収することとして、実質的に①と同様の融資目的を実現する方法であったが、これらの融資方式は、ディーラーとユーザーとが意思を通じて、商品の売買を装い、被控訴人には恰も正常の取引の如くに見せかけて、被控訴人からディーラーに対する代金の支払として金員の送付を受けることが可能であり、この場合には、商品の受渡しがなくとも、ディーラー又はユーザーが割賦支払の条件のもとで被控訴人から代金相当の資金を引き出して利用すること、すなわち、いわゆる空ローン、空リースとなしうるのである。

訴外会社は、昭和五五年頃、建設会社に工事を請け負わせて、アパートを建設中であったが、建築資金に窮したところから、被控訴人の従業員であり、そのリース部主任を務めていた前記小梁川英雄と相談して、被控訴人の右割賦販売方式及びリース方式を利用し、いわゆる空ローン、空リースを仕組むことにより、商品の売買代金名下に被控訴人から代金相当額の融資を受け、これを右建築資金に充てるとともに一部を謝礼として小梁川にも使用させようと企て、同人と共同して先ず、受水槽等のディーラーである訴外タカオ工業株式会社の了解のもとに、訴外会社が本件受水槽等を購入することを装い、これをもとに、被控訴人に対し、前記①の方式による割賦販売を申し込んで、前記認定の割賦販売契約を結ぶとともに、同日、売買物件である受水槽等をディーラーから納入を受けて受領した旨の物件受領書(甲第三号証の一)を被控訴人に提出したうえ、被控訴人からディーラーに支払うべき売買代金三〇一万一〇〇〇円の交付を受けて、これを右アパートの建築資金に充てた。さらに、その後、訴外大秋商会及び峰村商会(これは実質的には小梁川が関与しているが、企業としてさほどの実体を有するものではないもののようである。)の了解のもとに、訴外会社が本件普通旋盤等の商品を購入することを装い、これをもとに、被控訴人に対し、前記②の方式によるリースを申し込んで、前記認定の本件リース契約を結ぶとともに、同日、ディーラーからこれらの商品の納入を受けて受領した旨の、リース物件預り証(甲第四号証)を被控訴人に差し入れて、被控訴人から、ディーラーに支払うべき売買代金一八二一万八〇〇〇円の交付を受け、この内約一〇〇万円を謝礼として小梁川に使用させたが残余を前記建築資金等に充てた。その後同様のリースにより、被控訴人から融資を受けた三〇〇万円余を右小梁川に使用させたが、同人は昭和五六年九月、自己の使用にかかる金額の支払のために、訴外会社の代表者に対し、自己の弟名義の振出にかかる各金額二万五〇〇〇円の約束手形一〇〇通を交付し、内一三通を決済したものの、その余は決済されないでしまった。

以上のとおりの事実を認めることができ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

右事実から判断すると、被控訴人の従業員である小梁川も加担し、訴外会社及びディーラーたる前記各業者と意思を通じて空ローン及び空リースとして、本件割賦販売契約及びリース契約を結んだことは確かであるが、被控訴人は、その事情を知らず、右各契約を結び各ディーラーに支払うべき売買代金に相応する金額を訴外会社に交付しているのであるし、もともと、被控訴人の割賦販売方式及びリース方式は、被控訴人とユーザーとの間の商品の売買ないし賃貸借の法形式をとっているものの、その実質は、その形式による融資目的の実現を内容とするものであり、本件において、訴外会社は商品の引渡を受ける意思を初めから有しないものの、右の法形式のもとに被控訴人から代金相当の融資を受け、これに契約所定の金額を加算した額を、契約所定の方法により割賦償還することを約し、これに拘束される意思を有し、相手方の被控訴人においても同様の意思を有するものであることは、正常の契約の場合においても、また本件の如き空ローンや空リースの場合においても異なるところがないのである。してみると、本件においては表示と意思との間に相違はなく、虚偽表示の問題は生じないというべきである。

3  次に、控訴人の錯誤の主張について判断するに、《証拠省略》によれば、訴外会社代表者は、本件割賦販売契約及びリース契約について、控訴人に連帯保証を依頼するに当り、建築資金の必要性は説明したものの、空ローンや空リースの実情を打ち明けなかったこと、控訴人は訴外会社の代表者とは親しい間柄にあり、本件のほかにも訴外会社のために幾度かにわたり、多額の保証をし、また自らも訴外会社代表者から保証を受けている仲であることが認められるのであるが、控訴人が空ローンや空リースを知っていれば、本件の各保証をしなかったかの如き《証拠省略》は右認定の事実関係に照らしてたやすく採用できず、かりにその事実が肯定されるとしても、本件保証の実質は融資に関する保証なのであり、右のような事情はいわゆる意思表示の動機に関する錯誤にすぎないし、しかも、その動機が契約の相手方たる被控訴人との間において表示されているものといい難いから、意思表示の効力を失わしめるものではないというべきである。

三  控訴人は、被控訴人が、自己の従業員が不正の行為をしたのに、その責任を放置して控訴人の保証責任を追求するのは、権利の濫用に当るか、信義則に反すると主張するのであるが、前認定の如く、本件割賦販売契約及びリース契約により、被控訴人から出捐した、実質上の融資金はごく一部を小梁川が使用したものの、それは訴外会社から小梁川に給付されたものであるし、殆どは訴外会社のための融資金として使用されたものであって、商品の引渡の点を除けば、訴外会社に対する融資の目的は、正常の契約と同様に達成されているのであるから、被控訴人が訴外会社に対して、契約に基づき、売買代金ないしはリース料の法形式のもとに、実質上の融資金の返済を求める債権を有することは疑うべくもないのである。してみると、その連帯保証人である控訴人に対してもその責任を追求することが、権利の濫用に当るとか或は信義則に反するものではないというべきである。

また控訴人は、被控訴人が割賦販売の物件やリース物件の所有権を留保しているとして、それの引揚げにより出捐分を回復できるから、控訴人の保証責任を追求する必要はないというのであるが、被控訴人が割賦販売やリースの法形式を用いて実質上の融資をし、取引対象物件の所有権を留保している場合には、その物件が現存する限りはこれにより、融資債権に対する実質上の担保権を保持しているものと解すべきことは前記認定の事実関係と弁論の全趣旨に照らしてこれを肯定しうるけれども、物的担保権を行使するか、人的担保権を行使するかは、債権者の自由に属するところであるばかりか、本件の如き空ローンや空リースにおいては所有権留保の対象物件が存在しないのであるから、右の主張は採用できない。

四  次に、控訴人は、正常な割賦販売及びリース契約を前提として連帯保証をしたとして、控訴人の保証責任の範囲を争うのであるが、前記三の前段に説示したとおり、取引物件の引渡の有無はともかくとして、被控訴人と訴外会社との間の融資は正常の取引の場合と同様に実現されたのであるから、訴外会社の債務の範囲は、控訴人の保証責任の範囲と同一であり、その責任に属するというべきであり、右主張も採用できない。

五  最後に、控訴人は本件割賦販売及びリース物件の引渡がなされていないとして、自己の債務の履行を拒絶するけれども、すでに縷説したとおり、本件においては買主及び賃借人である訴外会社が初めから、取引物件の引渡を受ける意思がなく、空ローン、空リースを仕組み、これを秘匿して被控訴人から代金支払名下に実質上の融資を受けた事案であるから、取引物件の引渡を受けないことは債務者たる訴外人の意図したところであり、それをもって、訴外人の債務の履行を拒絶する事由とはなしえないから、その保証人たる控訴人もそれを理由として保証債務の履行を拒絶することはできない(前述のように、空ローンや空リースの故に、保証債務の範囲が主たる債務の範囲と異なるものとはなし難い。)。

このことは、被控訴人の従業員である小梁川が訴外会社の金融を助けるために、空ローンや空リースを仕組むことに加担し、或は謝礼として融資金の一部を受け取り使用した事実によっても結論を異にするものではない。

六  以上のとおりであり、控訴人の主張はすべて採用できなく、前記一の1に認定した事実関係(なお、弁論の全趣旨により、本件リース契約は訴外会社の債務不履行に基づき第三年度において契約の規定に基づく解除がなされたものと認められる。)によれば、支払ずみと自陳する分を控除した残額の支払を求める被控訴人の請求は正当として認容すべきであり、これと結論を同じくする原判決は相当である。

よって、本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条一項に従い本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中恒朗 裁判官 伊藤豊治 富塚圭介)

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